前代未聞の動物愛護管理法の改悪。2021年施行になれば、小動物業界はどんなダメージを受けるのか?

動物愛護法の改正についてのペットフード協会会長のコメント

【後半】前代未聞の動物愛護管理法の改悪。2021年施行になれば、小動物業界はどんなダメージを受けるのか?

 

一般社団法人ペットフード協会 会長 石山 恒

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承継開業コンサルタント 西川芳彦

 

悪徳ブリーダーの撲滅などの目的にために動物愛護管理法の改正が環境省によって定期的に進められているが、2005年の法改正によって、適法ブリーダーまでが制約を受けて、大量のブリーダーが事業を止めたことで、犬繁殖頭数の減少が一気に加速した。(この詳しい内容は、2018年の院長向け冊子をご参照ください)。

そして2019年の改正では、ケージのサイズ、スタッフ一人が管理できる犬猫の飼育頭数、交配の開始年齢と終了、生涯の繁殖回数などさらなる制限が加わることとなり、この法律施行が2020年に決まれば、2021年6月から遵守基準に抵触し、事業者が改善に至らなければ業務取消処分となる、厳しい規制が始まる。

これは、小動物業界にとっては「改正」ではなく、「改悪(この文言が正しいとは思わない。動物の福祉向上という観点から改正を使うべき)」としか言いようがない。

この動物愛護管理法の改悪で小動物業界はどうなっていくのか、ペットフード協会、石山恒会長にお話を伺った。

 

西川:  2018年にこの本誌の取材で、「2005年に動物愛護管理法の改正で、多くのブリーダーが一斉に事業を止めてしまったことで、犬の頭数減少が始まった」とのことで、ピーク時の2008年に1310万頭いた犬が2024年にはほぼ半減して700万頭まで減っていく」との予想を石山会長から伺いました。

その際に、「2018年には動愛法の第4回目の改正が行われる」(実際には2019年に改正された)とのお話がありましたので、今回、再び、石山会長から詳しい内容をお伺いできればと考えました。前回も、ペットフード業界や動物病院業界にとっては「改正」ではなく、「改悪」としか言いようがない内容でしたが、今回はどんな内容だったのでしょうか。

 

石山会長:  基本的に5年おきに法改正は行われて、その都度、ペット業界、ペットフード業界、そして獣医師にとって厳しい内容になって来ています。

動愛法の法改正自体は2019年にすでに決定されていて、2020年に施行する省令が決まれば、2021年と2022年(マイクロチップの装着義務)6月から実施されることになります。

施行後、遵守基準な抵触し、事業者が改善しなければ、業務取消処分となる、厳しい内容になっています。

今回の法改正でブリーダー業界が大きくダメージを受けるポイントが3つあります。

 

そのポイントとは、

1、ケージのサイズ、

2、スタッフ1人あたりの飼育頭数の制限、

3、交配の開始年齢と終了と生涯の繁殖回数

です。

 

西川:  この動愛法の改正・施行によって、再び、ブリーダーがダメージを受けることについては、動物病院の獣医師はほとんど知らないと思います。

 

ケージの大きさは、スウェーデンをモデルに決定された

西川:  ケージの大きさの制限によって大きなダメージを受けるとのことですが、これはどのようにして決められたのでしょうか。

石山会長: 例えば欧州で、オランダ(1㎡)、ドイツ(6㎡)、イギリス(4㎡)の3カ国だけをみただけでも、ケージの大きさ基準は違います。

 

なぜこの各国で基準が違うのかと言えば、

科学的根拠に基づくものではなく、「社会がどうあるべきか」をみんなで協議し、社会的合意形成によって数値基準が決められます。

オランダではOKであっても、ドイツではダメだとなります。

 

では、環境省は日本の基準をどのようにして決めたのかと言えば、一人あたりの飼育頭数の基準については

「スウェーデンの基準データをそのまま使った」のです。

全世界では4億頭の犬が飼われていますが、このスウェーデンはわずかに100万頭。

 

全世界の頭数のわずか0.0025パーセントに過ぎない国の基準を使って、この日本の基準にしてしまうのは大変おかしな話だと言わざるを得ません。

しかも、この基準を決めるのに、最も影響を受けるブリーダーが1人も関わっていません。

 

2016年、日本ペットフード協会は、欧米の基準がそのまま日本に導入された場合にブリーダー業がどうなるのかをシミュレートした結果をご紹介しましょう。

データを出しやすくするために、ライセンスの更新は5年で、毎年20パーセントが更新していくという前提の上で、予測を出しています。

 

まずオランダの基準だった場合、今のままですとブリーダーはわずか14パーセントしか生き残れません。

そして飼育頭数が2040年には56万8000頭しか残らないという、衝撃的な数値予想が出ています。

オランダよりもさらに厳しいドイツの基準では、ドイツの基準に対応できているブリーダーはほぼゼロになり、飼育頭数は2040年に18万頭にまで激減してしまいます。

ピーク時の2008年には1310万頭だった飼育頭数が同年の法改正で2017年には893万頭まで減って大騒ぎしていますが、

今回の法改正が実施されると、業界が壊滅状態に追い込まれるくらい最悪のこの予想が現実味を帯びてくることになります。

 

スタッフ1人あたりの飼育頭数に制限がかけられる

西川:  現在、犬の頭数が減っていることで、動物病院業界では、その地域の繁盛病院にますます患者さんが集中していくことでの二極化が進んでいますが、先程の2040年の飼育頭数の激減予測はあまりにもショッキングな数値で、絶句するしかありません。

このケージの大きさ制限でも業界はここまでのダメージを受けてしまうことが予想できますが、今回のもう1つの改正点、スタッフの飼育頭数制限はどんな結果をもたらすことになるのでしょうか。

 

石山会長:   この「スタッフ1人あたりの犬猫の飼育頭数の制限」が最も早く、この業界にダメージを及ぼすことになります。

私もこの制限がこんな数値になるとは思っていなかったので、私が会長を務めているもう1つの団体・犬猫適正飼養推進協議会とペットパーク流通協会共同で、ブリーダーに対して実施した緊急アンケートの結果を各報道機関にプレスリリースとして発信させて頂きました。

 

今回の法改正で、「スタッフ1人あたり、繁殖犬15頭まで、繁殖猫25頭まで」と制限されることになると、

その影響がどんな形で出てくるのかをお話ししますと、

ブリーダーに対する緊急調査(有効回答数は1109件)の結果から、

1、この制限によって現在の犬猫のどれくらいの数がオーバーフローになるのか、

2、この制限の根拠としてどのような行動をとるのか

が見えてきました。

 

まずオーバーフローの数ですが、これらの業者は平均28.9頭の繁殖犬を飼育しているので、2021年6月の法律施行時には「13.9頭」が超過することになります。

繁殖猫では平均42.6頭ですから、「17.6頭」が超過となります。

その超過分を全国のブリーダー数から推計した数字は、犬が10万5790頭、猫が2万5509頭となり、その超過分について新たな確保先を探さねばならなくなります。

環境省が発表している動物愛護センターからの譲渡数は、犬では約1万7000頭、猫では約2万5000頭ですので、行政による年間の譲渡実績は犬猫合計で約4万2000頭です。

このオーバーフロー分は、犬では6年分、猫では1年分の譲渡数が一度にどっと出てくることになります。

 

また、この基準案への対応策について調査したところ、

スタッフ数をこれ以上増やすことは難しく、犬のブリーダーの32.3パーセント、猫のブリーダーの18.9パーセントが廃業を視野に入れて検討していることがわかりました。

これだけの業者の廃業によって、どれくらいの犬猫が行き場を失うかを計算しますと、犬で14万156頭、猫で1万7218頭という頭数になります。

28の動物愛護センターで受け入れ可能性を調べたところ、全ての愛護センターで「不可」だという返事で、中には飼育頭数の減少、スタッフの増加、改装と人とに費用を掛けないと存在ができないことも判りました。

 

「スタッフ1人あたり犬で15頭まで、猫で25頭まで」という新基準の導入で、ブリーダーは現在の半分くらいにまで減ります。

「川上産業」であるブリーダー業が半減するとなると、「川下産業」であるペットフード業界や動物病院・獣医師にとっても、その数を半減せざるを得なくなる可能性がでできます。

 

なぜこれだけの数の廃業者が出るかと言えば、収入が激減してしまうからです。

例えば、夫婦で60頭を飼育していたケースでは、オークション価格を約10万円とすると、年間1200万円の売上で経費(光熱費、獣医医療費、消耗品、家賃、地代等)を差し引いても566万円は手元に残っていました。

それが新基準で1人犬15頭になると、夫婦で30頭制限となり、手元に残るのは273万円と半減します。

夫婦で24時間、365日働いてこの収入では、「もうやっていけない」と考えて当然です。

では、大規模にやっているブリーダーはどうかと言えば、300頭の繁殖犬の業者の場合、その数を維持したいならば、スタッフ数を増やさなければなりません。

そのため、人件費の大幅アップで、収支がマイナスに落ち込んでしまう業者も出てきます。

 

西川:  この調査結果はペットフード業界のみならず動物病院業界にとってもとんでもない事態を引き起こすことが十分に予想できますが、この点について石山会長からみて、獣医師はどのように捉えているとお考えですか。

 

石山会長:   獣医師にもこのデータを示して説明しましたが、あまりピンときていない感じでした。

それは、今日、明日で大問題になることではないと考えられているからでしょう。

今回の法改正によるダメージは私たち世代にとってはさほど大きな問題にはならないかもしれませんが、若い獣医師で借金して開業している獣医師さんには気の毒で仕方ありません。

 

西川:  石山会長のご尽力にも関わらず、この法改正はすでに決定事項で、変えるのは難しいのでしょうか。

 

石山会長:  難しいではなく、不可能です。

この法改正でインパクトを最初に受けるのは、ブリーダーとオークション業界、そしてJKCです。

ペットフード業界と動物病院業界への影響はその後にやってきます。

それは、飼育頭数が減っても、犬は14.15歳の寿命がありますから、病院の来院数の減少は一気にではなく、徐々に進んでいきますが、受けるダメージは徐々に強くなっていきます。

 

西川:  ブリーダーの激減がいつから始まるとみておられますか。

 

石山会長:  それは環境省が業界の激変に気付いて緩和措置を行うか否か、また、行うとすれば、法の施行からどれくらいの期間の間に実行されるかにかかっています。

これからインターネットのオークション販売にも規制を入れようとしています。

その規制が入ってくると、ペット販売、ペットフード業界、そして動物病院業界は、業界自体の存続の危機に立たされることになるかもしれません。

これは誇張して言っているのではなく、データに基づいての見解であることを最後に申し述べておきます。

 

前半はこちらから

ペットフード協会石山恒会長に聞く獣医師が知らない、ペットフード業界で起きている二極化

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