動物病院の ブランド について

【証言】院長病死の動物病院を承継した院長が語る、承継開業スタートで元々の「ブランド力」は復活できる

60代からが引退の定番だった時代から、ここ数年の特徴として、50代、40代後半へと院長の引退時期が早まっています。

この大きな要因は、「あまりの忙しさゆえに体力的な限界を感じた」ことです。また、忙しさのあまり、自分の健康に気を配ることがなかったことで、突然、病気が発覚して、といった要因もあります。引退を覚悟した院長は、自分の体調・体力に合わせて病院規模を縮小せざるを得なくなっていきます。

そこで今回は、院長が病死して規模を縮小、存続の危機にあったブランド病院が事業承継で第三者が引き継ぐことで元々のブランド力を復活させた事例を紹介します。

動物病院 川上  石川陽一院長(栃木県足利市)

動物病院の 独立 ・開業の準備について

【開業後4年 獣医師4人、看護師11人】

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承継開業コンサルタント 西川芳彦

改善策を「押し切る」形で進めたことがブランド力復活に奏功

西川:この動物病院 川上は県下有数の繁盛病院院長を多数輩出された、この足利市のブランド病院です。しかし、川上院長ががんで病死されて、病院規模を縮小せざるを得なくなって、奥様から私に第三者の承継者を探して欲しいとの依頼が来ました。

そこで石川先生にこの病院を承継先としてご紹介しましたが、その時はどのように感じられたでしょうか。

石川院長:私の希望は、規模があまり大きくない病院でした。1億円以上の病院は、「怖い」「嫌だ」と思っていましたので。そこで紹介された「川上」は、4000万円の承継金額でした。規模を縮小されていたので、私の条件にちょうど合う病院でした。

売上6000万円で、スタッフが8人。私が副院長として勤務していた動物病院の規模と同じくらいだったので、「出来そうかな」と思えたので、承継を決断しました。内心は「失敗するかも」と思ってドキドキでしたが。

西川:石川先生が承継されたこの病院は、元々、億超えの繁盛病院でした。石川先生は承継後、どのような形で改善策に取り組まれていったのでしょうか。

石川院長:この「動物病院  川上」は担当医制で患者さんが決まっていたので、私が承継した当初は、私が診る患者さんは居ませんでした。そのため、開業早々から忙しさで忙殺されることもありませんでしたので、改善策をじっくり考える時間ができました。

そこで実施した改善策は、①週休2日から365日、年中無休の動物病院に転換したこと、②新たに夜間診療を開始したことの2つでした。

西川:今は国の働き方改革があって、休日増加が積極的に進められていますが、4年前に週休2日から年中無休にするのは、スタッフの大反対があったと推察されますが、そこはどのようにして乗り切ったのでしょうか。

石川院長:年中無休への転換は、私が承継開業して1ヶ月後から始めましたが、やはり、すごく反発されました。何かきっかけを作って納得してもらおうとも考えましたが、私の性格でしょうが、やると言ったらやると押し切った形です。

この決断ができたのは、前の勤務先病院が休みなしだったこともあります。

この「動物病院  川上」に来た時、週休2日なので、勤務医が「明日が休みだから今日退院させよう」とか言って、日程をやりくりしている。私は「患者さんのためになるように治療計画は組め」と勤務医時代に教え込まれてきたので、休みがあることで、逆に治療計画が立てにくくなっていると感じました。

私が押し切ったのは、前の動物病院での成功体験があったからではなく、この治療計画を立てやすくするために改善したかったからです。

もちろん、この足利市周辺の病院との差別化を図ることも目的の1つでした。承継直後の「動物病院  川上」は、周辺病院と特に変わりがない病院でしたので、一気に差別化を図ろうと考えました。

365日病院を開けるのは、獣医師が2人いればできる(獣医師には休みは必要なので2人は必要)。

この2つのポイントからこの改善点はこの病院に絶対必要だと思えたので、スタッフの反対があっても押し切る形で実行しました。

すると、周辺の飼い主さんたちの間で「川上さんが365日に変わったよ」とのクチコミが一気に広がっていきました。このクチコミで、「動物病院  川上」が勢いを失って離れていった飼い主さんがすぐに戻ってきました。

西川:「離れていった飼い主さんに戻ってきて欲しい」と川上先生の奥様が仰っておられました。

石川院長:もう1つの改善点は、夜間診療を始めたことです。毎日22時まで残って、私1人で夜間診療を始めました。これも、私が修業してきた病院で夜間診療と宿直があったので、その時の経験を活かしました。

この足利市周辺では夜間診療の病院は1件もありません。夜間診療病院は埼玉県熊谷にありますが、車で1時間離れているので、飼い主さんから「先生がやれる範囲のことをやってくれればいい」と言われます。亡くなる子もいますが、その後、「新しく飼った子は石川先生にお願いします」と言われます。

この夜間診療を始めたことで来院数が増えてきたと思われます。

川上院長の時代、この動物病院は足利の飼い主さんたちに「川上さん」と呼ばれて馴染みがある病院でした。そして今、その飼い主さんたちから「また昔の川上さんが戻ってきたのね」と言われます。

西川:この病院は石川先生に承継されたことで、一時失ったブランド力を復活させることができたということですね。

石川院長:そうですね。これらの改善策によって、私が売上6000万円で引き継いだこの「動物病院  川上」は、2億円超の規模の大きい動物病院へと復活しています。

 

ブランド力が復活すると、院長である私の働き方が変わった

西川:石川先生は承継開業されて4年目になるわけですが、この間に直面された課題、悩みはどんなことだったのでしょうか。

石川院長:承継2年目で、普通に頑張っていれば来院数は増えていくようになったので、業績面での課題は無くなりましたが、規模が大きくなるに連れて出てきた課題は「人手不足」でした。地域的な理由があるので採用には相当苦労しましたが、なんとかスタッフ数を確保してきました。

しかし、3年目で別の課題が出てきました。人間関係が原因で、獣医師と看護師が辞めたのです。

その原因がどこにあるのかと悩んで決断したのは、院長である私の働き方を変えることでした。2年間は私が休み無しで頑張っていましたが、これは良くないと思って、自分の仕事のペースは落として、スタッフとの人間関係の調整役に努めるようにしました。

私が修業していた動物病院の院長から「一番頭を悩ませるのは人間関係なんだよ」と聞かされていました。当時は、「そんなもんですかね」と思っていましたが、私自身が院長になって、この言葉が良く分かるようになりました。

この3年間でこの「動物病院  川上」が元々持っていたブランド力は復活できましたが、その復活で変わらざるを得なかったのが院長としての私の働き方でした。

2年間は自分が 第一線に立って中毒のような感じで仕事をしていたので、スタッフの働き方に常に不満を持っていました。それを3年目で切り替えて、私は仕事をセーブして、スタッフに任せていってもいいのではと思い始めました。仕事を抑えたことで休みができて、この年齢にして新たにスキーを始めました。

今ではスタッフが気軽に休みが取れる環境を作りたいので、スタッフが休みを取りたい日は私がカバーするといった仕組みにしています。

自分がこんな考え方になるとは、開業時には全く想像ができませんでした。常に院長がアクセル全開で仕事をしていると、スタッフはそのスピードに付いて来れなくなります。

新規開業4年目の先生からすると「なんと言う話をしているのか」と思われるでしょうが、承継開業して4年で規模が大きな病院になると、仕事はスタッフに任せて、逆に院長はアクセルを緩めていかないと全体をコントロールすることはできなくなることがわかってきました。

西川:今回、規模が大きな病院を引き継いだ新院長に取材をしてきましたが、規模が大きな病院では開業当初から抱えている課題はどの地域でも共通することが多いことが判りました。本日は有難うございます。

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