日本の事業承継が欧米の M&A と根本的に違う点
過去数回にわたって、米国からの外資上陸と投資ファンドによる動物病院買収のニュースを取り上げてきました。
グローバル化の中で、外資が日本市場に参入してくるのはむしろ当然の動きで、動物病院業界への参入はむしろ最後の方かもしれません。
ゆえに、米国動物病院が参入した後にどんなことが起きるのかを知るには、他の業界で何が起きたのかを調べれば、大体のことは予想できると思います。
他の業界をみれば、
金融業界(特に都市銀行や保険)、家電業界、医薬品業界などでは、会社名は日本名ですが、資本関係や株主は外資企業や外国人投資家という会社ばかりになってしまいました。
動物病院業界でも、M&Aで米国外資に買収された動物病院は、看板も勤務医もスタッフも外見的には何らの変化もありません。
しかし、経営や人事面といった動物病院の要は、日本人獣医師から離れて、米国の会社に握られることになります。
一方、この欧米M&Aの他に、日本には、事業承継という形で動物病院を引き継いでいくという手段があります。
そこで、この事業承継と欧米M&Aの違いについて、承継開業コンサルタントの西川芳彦氏に伺いました。
欧米M&Aと日本の事業承継にの違い
Q: 米国からVCAという企業動物病院が日本で超優良の動物病院の買収を始めているとのことですが、この欧米M&Aと日本の事業承継にはどんな違いがあるのでしょうか。
西川氏: この動物病院業界でみた場合の1番の違いがどこにあるのかですが、それは、経営者が米国動物病院になるか、日本の獣医師になるのかの違いです。
これは根本的違いと言えるでしょう。
米VCAの親会社は菓子大手メーカーのマースですから、獣医師ではありません。
私は動物病院の譲渡についてはやはり獣医師から獣医師へと引き継がれていくべきだろうと考えて、これまでコンサルタント事業を進めてきました。
動物病院の事業承継の特徴
Q: 欧米流M&Aにはあまりいいイメージを持っていない人が多いと思いますが、このM&Aと西川さんの事業承継にはどんな違いがあるのでしょうか。
西川氏: この第三者への事業承継も、欧米のM&Aと同じではないかとマイナスイメージを持たれている院長がおられます。
ただ私が考える事業承継は、その発想からして大きく異なります。
私は、「この事業承継は日本の伝統商法である近江商人の「三方よし」の考えに基づくべきだ」との考えを持っています。
今風に言えば、win-winの関係です。
この「三方よし」とは、売り手よし、買い手よし、世間よしですが、私がこれまでに手がけた事業承継では、院長よし、勤務医よし、スタッフよし、家族よし、動物よし、飼い主よし、そして新規開業や価格競争を減らすので業界よし。
さらに、その地域の動物医療が守られるので社会よし。
加えて、コンサルタントよしというので、「九方よし」になることがわかってきました。
一方、欧米流のM&Aでは、勝者が敗者を呑み込むので、win-winの関係にはなり得ません。
近江商人とは?
Q: この日本の伝統商法「近江商人」と西川さんとはどう結びつくのでしょうか。
西川氏: 私自身がこの近江地方の出身であることが一番大きいと思います。
近江商人たちは「他国商い」と言って、地元にお店を構えるのではなく、商品を持って日本全国に行商に出掛けました。
私はこの近江商人の他国商いに倣って、この事業承継で1つ心掛けてきたのは、「全国の院長や勤務医に直接お会いした上でご相談をお引き受けする」というコンサルスタイルです。
ネット時代と逆行しているように思われるかもしれませんが、直接お会いすることでネットでは絶対に伝わってこない雰囲気などがわかりますので。
ぜひ機会があるならば、近江地方を訪ねて、100年を超える企業を多数輩出した近江商法の真髄がどんなものかを知って頂ければと思います。
※編集部: 西川氏のご協力を得て、このM&Aと事業承継との違いを一覧表にしたので、
コメントを残す